
石川ひとみさんと加藤眞三先生の対談の後半です。誤解や偏見がない、よりよい医療とは何かについて語り合いました。
― 石川さんは、ご自身の病気に対してすごく前向きですね
突然症状が悪くなったことがあるのですが、そのような事態に対して、ある程度覚悟していたはずなのに、それまで積み上げていった気持ちが脆くも崩れ去っていくという経験をしました。でもその時に「がんばろう」と思えたのは、主治医の「大丈夫」という言葉でした。
「もちろん悪くなることも考えられるし、油断は常にできない状態です。だけど、病気への対処方法はたくさんあるから大丈夫ですよ。悪化したときのことは、悪くなってから考えればいいのだから」とおっしゃってくださいました。

この言葉が、自分にとってすごく励みになっています。いい意味で楽観視していたほうが、生きていきやすいなとすごく感じました。
先々をあまり過度に心配しないということですね。「その場でできることをまずやってみる」という方向で考えることができれば、気持ちも楽になります。
ただし、ケースによってはそれがとても難しい場合もあります。例えば肝がんが広がってしまっている患者さんに「大丈夫」とは、あまり言えないですね。患者さんを励まそうと思って事実を隠すことは、避けたほうがいいと思っています。
肝臓病の患者さんの場合は、自分はがんになるかもしれないと覚悟している場合が多く、逆に家族のほうが「伝えないでほしい」と申し出てくるケースがあります。この場合、「本人にどう伝えるか」という問題に加えて「家族にどう話すか」という問題も出てきます。そんな場合は、家族にも肝臓病教室に来てもらうことが大事になりますね。
私も事実は必ず伝えてほしいと思っています。それから、正しく伝えるということと関係しますが、肝炎という病気に対して誤解とか偏見を持たれてしまうことがありますよね。
「病気のことを職場では言えない」とかね。「歯科治療のときにも言ってない」という人もいますね。会社で感染することはまずありませんが、歯科治療の場合には、もしかしたら歯科の先生に感染することがあるかもしれないし、次の患者さんにうつることも可能性として考えられます。だから「職場では無理に言う必要ないけど、歯科医には言ってほしい」と伝えています。
肝炎やAIDSのようなウイルス感染症は、なんとなく不気味と思われがちですが、実際の生活では感染することはほとんどないわけです。

10数年前の話ですが、眼科に入院したおばあさんがいました。その方は白内障の手術を受けましたが、手術前の検査で初めてB型肝炎だとわかりました。手術は成功したのですが、退院時に「おばあさんはB型肝炎ウイルスを持っているので、気をつけるように」と家族の人は言われたそうです。退院後のおばあさんは、家に帰っても孫はだかせてもらえない、お風呂はいつも一番最後、食卓も一緒に使わせてもらえないという目にあってしまいました。
だから、家族や周りの人間にも正しい知識を持ってもらうという努力を、医療者側がしなくてはいけないのです。
― 肝臓病に対する考え方も変わってきていますね
昔は「安静」ということがとても強調されていました。「食事の後は一時間布団に入って寝るようにしています」という人もいましたね。
えっ? 以前入院していた頃はそうしていましたよ。今は違うんですか?
食後は横にならなくても、ゆったりしていれば大丈夫。普段は逆に体を動かしたほうがいいんです。もちろん調子が悪いときは別ですよ。
「安静に」と言われると、人は縮こまってしまいがちでむしろ病気になってしまいます。その患者さんにとって適度な運動量を見極めて「この辺まで運動していいですよ」と教えてあげることが大事です。
自分を病人にしないということですね。
そうです。そして周りの人もそうさせないように心がけないといけませんね。
― 医者も患者も家族も正しい知識を持つことがとても大切ということですね
実は僕自身がB型肝炎なんです。自分自身が若い頃に偏見を持たれた経験があって、「医療側からの情報提供が大事だな」と身にしみて感じました。

そうだったんですか。じゃあ先生と私、同じ立場じゃないですか。
そうですね。だけど、肝臓病教室は普通の医師にもやってもらいたいから、このことをあまり強調していないんです。僕自身が肝臓病患者という立場からやっていると思われると、なんだかつまらなくなるでしょ(笑)。まあ、宣伝はしていませんが隠してもいないといったところでしょうか。
より患者さんの気持ちがわかるわけですよね。
自分自身は、若い頃に患者の視点を持てたわけですね。患者の視点を持つということは、とても大事で、患者自身にはなれなくても他人の視点で考える機会は持てるわけです。そのことが医療そのものを変えていくと思っています。